【駄文】突然ですけど小説を書きます

語ってます。

 

最近「冗長さが読者を遠ざける」という大変もっともで当たり前なノウハウに苦しむ創作者さんが多いのですが、じゃあどれが「冗長」でどれが「表現」や「演出」にあたるのか、そこまで考えてみえる方は少ないのではないでしょうか。


読者視点だと、表現も演出もくどくなりすぎない範囲で削って欲しくないです。それは作家の味なので。

 

 

 


というわけで。

突然ですけど小説を書きます。削らないでほしいものを説明するため致し方なし。よかったら皆さんも書きながら一緒にどうですか。


お題は10秒で決めました。


【設定】

・こめ助と土筆丸は豊作の田を走る農道とか、なんかそんな感じのとこにいる。

・こめ助は稲の神様である。

・土筆丸は成人男性である。

・二人がいる場所は見渡す限りの稲に囲まれている。

・時間は夕方だ。

 

ここまでが読者と共有済みと仮定します。

続けて以下のシーンを書きます。


【これに続く場面を書く】

・土筆丸は道端の折れた花を見つけ、ショックでへたり込んでしまった。

・土筆丸に何をしても彼は顔を上げない。

【以下の部分を描写します】

・こめ助は彼に顔を上げてほしくて、稲の神の力で辺り一面の稲をガサガサ動かすも、土筆丸の心は動かせない。

・こめ助はそれを寂しく思う。

 

 

 

なんか事情はわかりませんがこれでいきましょう。

 


早速書きます。

 

 

【1】

 こめ助が右手を天に掲げると、稲の神としての力が発露し、あたり一面の稲を一斉にざわめかせ金色の波を立てたが、土筆丸を気付かせることはできない。彼は背中を丸めたまま、呆然と茎が折れた花を見つめている。

 いつもは大きくて頼りになる土筆丸の背中が妙に小さく見えて、こめ助の胸を締め付ける。

 こめ助は唇を噛み、込み上げる寂しさに耐えた。土筆丸の顔は見えなくとも、その背中に漂う哀愁を、こめ助はひしひしと感じていた。

 

 


意味が伝わると思いますので、これで作品にはなります。やりましたね。本が出ますよ。


ただ私ならこれを読んだ時点で「面白くない」とは感じてしまうタイプの書き味です。

だって実況じゃん。競馬か?最近流行ってますね。

特に「AがBなのでCです」調はドラマチック系小説にあまり入れたくないです。個人的な趣味で。「いつもは大きくて頼りになる土筆丸の背中が妙に小さく見えて、こめ助の胸を締め付ける。」が趣味と相性最悪ですね。


ともかく今読者私が読みたいのはドラマであって世界観講義ではありません。小説を読みたい気分な私の趣味ではない。

そう、ドラマチックを足さねば──

 

 


足さないです。


足すとどんどん冗長が加速します。読みにくくなる。

先にやるのは削ることです。

というわけで、「最低限必要な情報と演出だけを入れた文章を書く」をします。

 

 

【2】

 こめ助の右手が天へ伸びる。呼応した稲穂が金の波を立てた。輝きはざわざわと二人を取り囲む。

 どうか顔を上げてくれないか。

 ぐっと唇を噛み締める。土筆丸の垂れた頭は、尚も路傍の折れた花を覗き込んだままだ。

 

 


解説文を思い切って削りました。

更にここで視野の導線を少し加味しています。


天に伸びた手から視線が始まります。続けて「天に伸びる」という語によってカメラを一旦高めの位置に上げます。波打つ稲が二人を囲む様子を俯瞰で見ることができました。更にこめ助の一人称モノローグを代読することで、アングルを「こめ助→土筆丸」の向きに設定。そのままの勢いでこめ助関連の主語を省略し、最後に土筆丸の背中を経て、路傍の小さな花へカメラワークを狭く絞り締め。

文字で書かずとも、ムードはこうしたカメラワークでも足せる。せわしい現代人のため、全ての力を借りて文字を減らしていきましょう。創造は多角的に。


ここまで短くなったらようやく情景描写などを足します。

 

 

【3】

 こめ助の右手が天へ伸びる。呼応した稲穂が金の波を立てた。輝きはざわざわと二人を取り囲む。

 穂の音だけが、地平の果てまでを包み込む。低い太陽はさざめく波とこめ助の頬を照らす。

 どうか顔を上げてくれないか。

 じりじりと肌を焼く熱が、脈をはやらせていく。伸びた右手の影が、男の大きな背中にかかって、微かに震える。

 ──土筆丸の垂れた頭は、尚も路傍の折れた花を覗き込んだままだ。

 

 


削れてしまった情報を足しつつ、雰囲気を強める情景を描写しました。


カメラワークは視野を広めるために地平のワードを入れます。また、広い田んぼの中に二人きりという孤立を際立たせるために、ここには音もないことを強調しました。この二つは「穂の音だけが〜」の一文が両方担います。

更に夕暮れを再度強調したい。コントラストの効いた絵にしたいので、「夕方」という言葉を使わずに、西日の眩しさと影の濃さを主張します。もう夕方であることは読者は知っていますし、描写の中心にある単語でもないので、今回時間を表す語をリフレインする意味はないだろうと考えました。

さらに土筆丸が大きな成人男性であることと、こめ助が「顔を上げてほしい」と胸をざわつかせていることも、影が揺れるモーションで書き足します。ここでこめ助の動作を入れましたので、唇を噛む描写は蛇足になったのかなと。よし抹殺です。

ただ、唇を噛むという凡庸な蛇足でも、抹殺したせいで読み手は一瞬で「土筆丸は顔を上げない」という締めにたどり着いてしまいます。それはそれでダメなので、読み手にも登場人物にも静寂な間を加えます。西日にジリジリ照らされるという、時間尺のある感覚を挿入。

 

こんな感じが私の趣味です。

 


というわけで。

情景描写をたくさんしましたが、全てに意味があります。意図があります。これを削ると味は死にます。

たしかに、小説に意味のない文字は1文字たりともあってはならない。全てが作品に必要な文字でなくてはならない。だけどその「必要」に、作品の実力というか──味わいを深めるための技巧は当然含まれて良い。

説明と表現は区分した上で取捨選択したいところです。目標。

 

特に授業でも講座でもなく、素人の気取りドヤ顔創作スタイル語りなので締めはありません。小説全てに適用できるものでなく、「私の好きな小説」を題材に語ってますので、人によってどこを「要らん」と切り捨てるかは違うでしょうしね。


自分のメイキングを整理するのは未来の自分のためになります。

 

 


「シーンや描写の取捨選択」「表現を少ない量で多角的に入れる」というトレーニングは漫画でも意識してます。

どんな創作物でも共通です。

……頭ではわかっててもできないので創作って大変ですよね。